�K．源氏改姓前までの流れ

1．葵の御紋

「このモンドコロが、目に入らにゅかぁー！」と、そんなモン入れたら目が潰れます。さておき、そんなセリフ。ジジィのウザぃ高笑いと共に 聞いた事が有りますよね。ちょっと その『モンドコロ』の お話。このモンドコロ、通常『家紋』と言います。コレは大体 各家ごとに決まっていて、御自分の お家の家紋を見た事が有る方も多いと思います。それこそ皆さんも お亡くなりあそばした時には必ずと言ってイイほど、家紋の付いたあるモノに入ります…『お墓』ですね。通常の場合は必ず墓石に家紋が付いていると思います。お墓参りなんかに行く事が有れば確認してみても良いと思います。肝試しなんかで墓地を通る時は、そこに有る墓石の家紋を注目しながら歩いていれば気が紛れる…ワケが無いですね；

さて、その家紋ですが、平安時代中期頃から発生している様です。当時は、公家が着物とかに付けていたくらいで、当然ながら一般化してません。結局 何の為にそんなモノを付けたかと言えば…多分 最初は単なる飾りだったんでしょう。それが徐々に公家階級の中で区別を付ける為の道具の様になって来たんでしょう。要は、公家が大勢の藤原氏出身者ばっかりになってしまっていて、どーにも区別が付けづらい。それで各家の目印であり、「ウチ、道長家 だもんねー」みたいな 著名な出身者のいた場合は 家柄の誇示と言う事で、家ごとに模様を固定して行った。そんな所だと思います。家紋が爆発的に広がったのは、武家社会に移ってからでしょうね。要は 農民上がりの田舎モノ…武士共が、恐れ多くも昇殿したりする事も有り得る時代…結局 ココで田舎文化と貴族文化の融合・交錯が起こり、家紋の風習は一気に広がったんだと思います。詳しい事は知りません。家紋には別段 興味無し。ただ、家紋から 有る程度 家系を読み取れる場合も有りますし、多少の指標には なり得ます。だから、ココで触れようと思っている訳ですが…。よく『源氏紋』とか『藤氏紋』とか言って、御自分の先祖を誇張したがる方がいますが、本来 家紋には絶対的制約や条件など 別に存在しません。個人的な思い込みは別に結構な話ですが、似た様な家紋を付けていても全然関係無い場合の方が多いです。特別な限定は多少有りますが、本来は何を描いても自由なモノです。

と言う訳で、一応 当時の制約の部類に入るんでしょうか。徳川将軍家にも有りまして、天皇家の菊紋と同じくらい有名ですよね。それこそ、先程のジジィの高笑い…アレです。『葵の御紋』です。正式には『三つ葉葵』と言います。葵の葉っぱを中心から均等三方向に広げている図柄。将軍家の家紋ですから、他の連中が おいそれとは使えない…と言う後付の制約では あります。ですから当時、この家紋に関しては法律が有ったかも知れないです。知りませんが。将軍家の偽者と言うのは やっぱりマズイでしょうからね。

2．松平の葵紋？

ところで この『三つ葉葵』は 松平氏時代から続いていた家紋らしいと言う話が有りますが、松平氏は最初からこの家紋を使っていたんでしょうか？松平氏始祖の父：賀茂在信は神主さんであり、始祖の信盛は畑を引き継いで『松平氏』に改姓してます。と言うより畑を引き継いだんだから、完全な農民です。神主を引き継いだのは 兄弟の在久であり、賀茂在信に家紋が仮に有ったとすれば、それは神官としての賀茂氏の家紋であり、受け継がれるのは当然ながら在久の方で、松平氏始祖の信盛には渡されない事になります。よって、信盛の家紋は無かったか、別の家紋を使っていたと考えるべきです。ところで、『三つ葉葵』は葉っぱが３枚ですが、他の葉数の葵紋も有ります。例えば『二つ葉葵』…賀茂神社の紋は二つの枝が交差した『二つ葉葵』だったと思います。ですから、賀茂氏の家紋は『二つ葉葵』と考えるのが普通ですね。そーすると、松平氏へ分流した時には、松平氏は農民ですから畑の豊穣を願って葉っぱを一枚増やした『三つ葉葵』…かも知れない。と、言いたい所ですが、違うと思います。後代である 第３代松平信光の お墓には『剣銀杏』の紋が使われている様ですし、更に後代である家康の父：松平広忠の霊廟にも『剣銀杏』が使われているそーです。『剣銀杏』の家紋は銀杏の葉っぱ３枚と言うのが基本でしょうか。葉っぱの配置は『三つ葉葵』に似てますけど。と言う事で、当初 松平氏は葵紋を使っていなかった。と思われます。では、いつから使い始めたのか？っつー事で、いくつかの説が 有る様ですが、とりあえず限定して２つ。

１．松平氏第５代：松平長親 時。

三つ葉葵は 元々松平氏譜代の酒井氏の紋だったと言う話。松平氏は長親の頃から大きく領範を広げます。そーなると、両隣にいる織田・今川の両氏としては、ウザぃ気がしてきます。松平氏は順調に西三河を制圧して東三河へ向かい出します。東三河に制圧進路を切り替えた時に、今川側が動きました。当時 家臣だった伊勢新九郎長氏を大将とし、三河・遠江の国境辺りの豪族と連合して、三河に進出してきます。それを防衛した立役者が酒井氏。酒井正親以前でしょうが、信親・家次・清秀・忠勝・康忠・忠親…酒井氏の誰なのかはハッキリしません。ただ改めて酒井の系図を見てますと、この辺の名前は 後々キーワードになって来そうです。それはさておき、その酒井氏の武功にあやかり…と言うか、「褒美やるから、ナンか縁起の良いモノよこせ」辺りでしょう。つまり、この合戦を勝つのは 大変厳しいモノが有ったと想定されます。合戦場は 現在の岡崎市井田野と言う所。近世に於いても墓場だらけだったらしく、元々死体置き場だったらしいです。この辺では小競り合いは頻繁に有ったでしょうが、中世近世に於いて あまり聞かない場所ですから、ソコが死体置き場として続いていたと言う事は、よっぽど死者の多かった厳しい戦が有ったと考えられます。恐らくこの井田野防衛戦が有力候補だと思います。これが、後々死体置き場として常套化されたんだと思います。ちなみに、今川軍大将の伊勢新九郎長氏と言う人物は、後の戦国時代で関東を手中に収めた北条早雲の事です。あの早雲を相手に勝利とは言えないまでも、撤退を余儀なくさせた事 自体が奇跡的な武功と言えますね。彼が大名になるのは確かに後々の話であり、当時は今川の一武将に過ぎなかった訳ですが、その場に於いて厳しい戦いを強いられたであっただろう事は、防衛し切る事が奇跡的であっただろう事は、容易に想像できると思います。

と言う訳で、「ナンかクレ」でもらったか、「オレも同じ家紋を使うどー」で使われて、酒井氏が主家に対し 遠慮して 葵紋を渡した後、自家の紋を切り替えたのか、その辺は分からないです。

2．徳川家康 時

父親の松平広忠が葵紋を使っていないから、コレしか考えられないでしょ？っつー話。ごもっともです。むしろ、家系と言う基軸に家紋と言う媒体を絡めるならば、この想定しか成立しません。父親が使っていた家紋は 他に有ったんですから、当然と言えば当然ですね。そこでお話を一つ。…とある武将が、将軍 家康の所へ出仕した際、旗には その武将の家紋が付けられてました。この人が江戸に入った時、その旗を見た他の武士達は馬から降り、町人達は土下座をしたそーです。その旗に描かれていた家紋…葵紋です。多分、徳川の一族と勘違いされたんでしょうね。何に載ってる話だったのか忘れましたが、この武将、新田義貞の子：貞氏の後裔と言われている横瀬氏族 由良氏の武将だとされています。…ホントは 誰だかハッキリしないんですが、もし由良氏であるなら新田氏系の人間だった…と言うか、新田義貞の直系近辺の家系と言う事になります。その後、事情を理解したこの人は慌てて葵紋を止め、他の紋に切り替えたそーです。そこで まず考えられる事。いわゆる 家康が将軍となった時点でも、葵紋は松平＆徳川の家紋として全国的に一般常識化されていなかったのではないか？と言う事になると思います。

つまり家康は、江戸幕府将軍の宣下と ほとんど同時期に葵紋に切り替えたと言う可能性が非常に高いと思われます。では何故、将軍の宣下と ほぼ同時期に葵紋に切り替えたのか？何故、葵紋でなければならなかったのか？と言う２つの疑問が生じてきます。

その疑問は後述するとして、とりあえず他の説としては、松平長親の話で出した酒井氏ではなく、本多氏への「クレクレ」攻撃をしたと言う伝承もありますし、やっぱり 賀茂氏から ずーっと葵紋だったと言う話も有ります。が、まず 本多氏の場合は逆だと思います。徳川氏から葵紋を拝領された家柄だからこそ 徳川四天王たる本多忠勝 以降、『後世も延々と使い続ける事が出来た』となる訳で、徳川氏に一際忠誠の高かったとされる本多氏であればこそ、仮に家康へ家紋を譲渡したならば、遠慮して他の家紋に切り替えるはずです。酒井氏でさえその感覚、本多氏なら況やをやの世界です。また、賀茂氏からの延々の流れと言うのは、信光・広忠が全然別の『剣銀杏』を使っている事、松平氏は農民出身であった事を考慮すれば、家紋としては矛盾だらけと言う事になります。

確かに先程言った通り、家紋は家系の根拠を確定的に立証出来るモノでは有りません。基本的に何を使っても、何を作っても自由なのが家紋です。それは、話の中心でもある 家康と 父親の広忠 の 二人の話だけでも、全然違う家紋を使っていた事から明白ですね。ですが、この部分は家紋の話をしています。ですから、家紋は家系の確定根拠とは言えないが、家紋によって生じる可能性と言う考え方を、前提に置いている事を考慮して頂きたいと思います。全部が全部『家系の話が家紋に繋がらない』では、家紋の意味が全く無くなってしまいますし、この関係で御自分の家系を調べている方も多いはずです。それを全否定したくはありません。逆に言えば、家紋が 一応 家系に繋がるものと言う曖昧な習慣として前提に有り、今回の徳川・松平系図の話に於いて、家康と広忠に家紋の違いがあるからこそ、『葵の家紋は、家康が江戸幕府将軍になった頃から使い出したのでは？』と言う仮定が一つ成り立つ事になります。

家紋については詳しく語りたいとも思いません。歴史的系列の根拠として薄すぎる…と言うのは今まで説明した通りです。ただ、現在でも 家系が家紋を繋いでいると言う何らかの感覚や習慣が存在し、家紋を使い 御自分の家系を調べている方々の存在…コレ自体が一つの歴史事実と歴史環境であり、その歴史事実と歴史環境がもたらす経緯そのものが、少なからず根拠として作り上げられ 少なからずバックボーンとして 先の2つの疑問や一つの仮定を導き出している事になる。と言う風に捉えて頂きたいと思います。コレは、後ほど書くだろうと思う『通字』に関しても同様です。イイワケの話が長くなりました。では先程の２つの疑問に突っ込みたいと思います。

3．征夷大将軍

まず仮定として『江戸幕府将軍の宣下の頃に改紋』と言う事は『江戸幕府将軍の宣下と葵紋には、何か関係が有るのでは？』と言う事になります。江戸幕府将軍の宣下時で家紋を切り替えたとすれば、当然ながら松平氏には、江戸幕府将軍宣下に至る際に必要な何かが欠けていたと言う事になります。江戸幕府将軍の宣下には何が必要だったか、この時点で何が足りなかったか？と言う お話。でもまーこの辺は、歴史に多少興味の有る方なら知っている方も多いと思います。いわゆる『源姓』と言うヤツですね。『武家幕府を開いたのは征夷大将軍であり、征夷大将軍は源氏でなければならない』…こんな感じで よろしいでしょうか？

ですが、ココでハッキリ言っておきます。『源氏でなくとも征夷大将軍には なれる』と言う事です。それと、『将軍』と言う言葉は本来、この『征夷大将軍』を指してません と言う事です。『征夷大将軍』とは、あくまで 朝廷の『遠征軍隊長』でしかないんです。本来『将軍』と言われるのは、京の都に於ける親衛隊長『近衛大将』を指します。どーにも、源頼朝の経過によって勘違いされていますが、頼朝の『将軍宣下』は『右近衛大将』になったが故の将軍宣下であり、『征夷大将軍』とは何の関係も無いんですね。後に頼朝が『征夷大将軍』となった理由は、軍事行動を興す際にも、朝廷へ伺いを立てる必要が無く自由が効くから…と言う利便性によるモノです。ですが、最終的に『征夷大将軍』となった頼朝によって、他の武士達に少なからず変な偏向認識を持たせてしまったのは事実であり、それが延々残ってしまい、現在にまでも至ると言う認識です。

家康も『征夷大将軍』として『将軍宣下』を受けて幕府を開いたとされてますが、認識的に ずっと以前に『左近衛大将』と言う本来の『将軍宣下』を受けており、コレでは幕府を開く際に、今更の話となってしまい 内外的に幕府を開く前後の差が明確にならないから『征夷大将軍』の宣下を受けただけです。ですから、『将軍』と言われる人達は、概して『近衛大将』の地位に就いている筈です。それが本来の『将軍宣下』ですから。ただ、これ以降の話を進める際では家康の『将軍宣下』を本来の西暦1587年の『左近衛大将』にしてしまったり、また 頼朝の将軍宣下を西暦1192年の征夷大将軍から外してしまうと、あまりこの辺の歴史を知らない方や、学校での お勉強を鵜呑みにしている方では、この感覚が全く通らないと思いますから、『将軍宣下』を 江戸幕府開幕の西暦1603年『征夷大将軍』とし、武家の棟梁としての『征夷大将軍』としておきます。が、本来の正しい認識は そーであり、現在の認識は あくまで 家康以降で構築確立されたモノであろう。と言う事を、頭の片隅に置いといて頂きたいと思います。

先の、源氏と征夷大将軍の関係について…にも触れます。源氏の人間が征夷大将軍になった例は、コレまでに２例あります。いわゆる 義仲・頼朝のいた為義流の源家、それから何度か登場しましたね 尊氏を初代とした足利家です。で、実は この２例だけなんです。明確では有りませんが、一応 征夷大将軍初代は多治比真人県守と言う人。その後、有名な坂上田村麻呂と来て、源義仲・頼朝に至ります。子孫継承する征夷大将軍として、源家＆足利家の２家が存在しますから、全体としての任官数は当然多いですが、鎌倉幕府の後代の将軍も藤原であり、皇族であり…別に征夷大将軍となる為に源氏でなければならないと言う根拠は無いんですね。そもそもコレは、朝廷官職の一つに過ぎない話であり、先の話も加味すれば『征夷大将軍＝日本を治める』とはならないんです。家康は、日本を自分の手で治めたかった訳ですが、『武家が日本を治める』…コレが 例えば、直前の豊臣秀吉が関白で、更に鎌倉幕府以前の平清盛が太政大臣で やってのけた事も そーであるのなら、任官職の種別なんて何でも良い事になります。

と言う訳で、先の疑問の答え。「将軍宣下には何が足りなかったのか？」と言う疑問は、「将軍宣下には特段に必要な条件は無い」ので、同時期の可能性は有っても「将軍宣下と葵紋は別段関係の無いモノ」となり、疑問そのものが間違いと言う事になります。また暗中模索に入りましたね。ですが、葵紋は 将軍宣下の時期。と言う結論だけは 一応残しておいて、日本を治めるに於いての将軍宣下の必要性を少々考えて、まず 将軍ネタを 完全に潰しましょう。ハッキリ言えば、この『征夷大将軍＝源氏』に関する偏重した認識は、甚だ迷惑な戯言です。

4．日本国王たる模索

タイトルの『日本国王』とか『国王』と言う感覚は、日本には非常に馴染みづらく、私としても異論が強いんですが…とりあえず楽なんで。ただ、これのガイドラインを書き始めると完全に話が逸れてしまうし、正直書くのが異常に面倒なんで、すいませんが端折らせてください。この後も何度か出てきますが、出来れば淡々とイメージ的にね、捉えてもらえると…お願いします。と言うわけで話を戻し、結局、日本を完全に自分の手中に治める事を、内外に知らしめさせる為には、どーしたら良いか？この疑問に帰結する話で、先の通り、征夷大将軍と言う朝廷官職は その経過手段の一つに過ぎません。と言う訳で前例として 歴史上、その方法を示唆した人物を探ってみます。とりあえず 有名な所で 二人います。まずは『平将門』。当時の関東を平定し、新皇を宣し独立国を築きました。ですが程無く朝敵として討たれます。もう一人は『織田信長』。序順では朝廷を取り込もうとしますが、程無くして朝廷を敵視し始めます。国王の存在する朝廷の存在自体を抹消させたかったんですね。ですが、その途上で本能寺の変です。反逆した光秀に関しては色々と説が有りますが、そこには少なからず大義名分として朝廷の意思が介在していたはずです。明智光秀なる 全国を又に駆けていた知略に富んだ武将ですから、その後の敗退が あまりにマヌケすぎます。『本能寺の変』と言う史上稀なる困難極まりない政変を見事に成し遂げた人物であるにも関わらず、その後の戦略が まるで児戯に等しい…これは、全体の見えていない人間が裏で動いていたと考えざるを得ないですね。いわゆる京都から外が見えてない連中…朝廷の画策であると言う当たり前な考え方が有効です。とまぁ、今回はこの話では無いので、話が外れますから この辺で。

話を戻し、こんな二人の端的な例ですが、結局 この二人の討ち死にと言う結末は何によって引き起こされたかと言えば、『朝廷に対抗する敵意』が問題でした。しかし、日本の主として 国王として立つ為には、前王を倒さなければならない。つまり天皇を倒さなければならない。当たり前と言えば、当たり前の話。でも敵視すれば当然ながら、朝廷が持つ『天皇が日本の国王であると言う浸透された大衆側の認識』たる伝統に押し潰されてしまう結末を向かえます。大衆も然り、長い歴史を保っている天皇家の現実は、そう易々と納得して切り替える事など出来ません。つまり、朝廷とも穏便にして日本の国王とならないと危険すぎる訳です。実質は日本の王で有っても、『名』たる格式がソレを阻みます。では、どーすれば 穏便に 名実共に、武士が 日本の国王となる事が出来るのか？この『名』の部分を取り繕える様な前例は無いのか？と言う捜索になります。

5．日本国王たる資格

まず一人、見つけました。『太政関白太閤 豊臣秀吉』です。彼は大陸への願望が強く、朝鮮に出兵し大陸進出に繰り出します。その折、当時の李氏朝鮮は、中国の明に救援を要請したんですね。結果 泥沼化の戦争となり、秀吉は明と講和に持ち込みます。その講和に於いて、日本が朝鮮を領土として獲得する事、また 明から皇女を遣し 天皇后妃にする事を要求します。つまり、中国と対等な立場にし、更に人質も よこせと言ってのけたサルです。これを単純に受け入れる事は出来ない明皇帝は、やむ負えなく『日本国王』の冊封しようとします。明皇帝にとっては、ポッと出のサルを 日本国王にしてやろうと言う最大の譲歩でした。でも それに対し サルは怒った訳です。中国からの『日本国王冊封』と言う事は、いわゆる中国の華夷思想であり、明皇帝の下風に就くと言う事になります。明皇帝としては、この辺で満足だろ？と言う事です。でも、秀吉の要求は受け入れられなかった訳ですね。ついでに言えば、『実の国王』は 既に自分であるから、明に とやかく言われる筋合いは無いと言う事。それから、明の皇女を天皇后妃にしておけば、万が一、明が攻めて来た場合、その后妃を処分する事もさながら、天皇さえも処分する事が可能と踏んだからです。それを全て御破算にされたと言う事ですね。と言う訳で、もう一回朝鮮に出兵します。が、サルは その途上で くたばります。さようなら。結局 彼は『名』の部分の『日本国王』に なれなかった…いや、ならなかったんですね。これじゃ、前例にならないです。でも中国に認めてもらうのも、一つの指針とは なりそうな例です。

さてさて、もう一人見つけました。『室町幕府第３代将軍：足利義満』です。この人で有名なのは、北山鹿苑寺。いわゆる金閣寺ですが、この人は 金ぱくの寺を建てて喜んでいただけの人では無いんです。まずは…当時は南北朝時代。天皇が二人いた時代が６０年間続いてました。ソレを終息させるという朝廷社会の大事業…結論だけ言えば、天皇を意のままに動かせた武将だったんですね。死去後には太政天皇号（天皇の父親が、天皇位に就いてない場合に送られる異例の称号）を、朝廷が贈号しようとした始末。それから、当初は中国と貿易を行おうとしていただけなんですけど、最初は「日本の王で無いからダメ」と言われたモノの、中国側のゴタゴタのうちに、向こうさんから貿易をしたいと言い出して。けど「日本の王で無いからダメ」とか以前に言っちゃってた手前、「じゃあ、ついでに『日本国王』号も」と言うことで、なんとなく『日本国王』号まで貰っちゃいました。ですが、これによって対外的にも日本の国王と認められてしまった訳ですね。ただ、コレには別説もあります。が、とりあえず通説は『日本国王』として認められた唯一の武将が『足利義満』であったと言う話です。また、異例の『太政天皇』を皇族以外で朝廷が贈号しようとしたのも、日本歴史上 これ一回キリです。つまり 結果的に日本に於ける 内外・公武・尊衆・名実を完全に手中にした人物は、日本史上 この人しかいない事になります。

では、現時点までを整理します。日本史上最高の権力者として存在していたのは『足利義満』であり、コレに倣うのが、一つの手段となり得そうです。彼が持っていた超一級と思われる官職等は、まず１１歳で『征夷大将軍』、２０歳で『右近衛大将』、３６歳で『太政大臣』、４３歳で『明臣：日本国王』・死んでから『太政天皇号（未遂）』となります。

では現状の家康と比較して、最終的にと言う観点となりますが、義満が死んでからの話は とりあえず縁起が悪いので…となると、家康は『中国に朝貢し日本国王に冊封』されるのが、なんとなく説得力の有る感じで、内外に於ける形式上の手っ取り早い方法になりそうです…が、現状の実務上、家康には無理です。当時の明に、断られるのは明白だから、コレは無理なんです。と言うのも、家康が 天下取り目前の ちょい手前で、何が起こってたか。そーです、先程の朝鮮出兵です。結局 サルの大暴れにより、明を怒らせてしまったんです。現時点で日本との国交も事実上遮断の状態。当然の結果ですね。ですから、対中国は不可能になってしまいました。よってこの方法では『日本国王』になれませんね。それとココの結論を先に言いますが、直前の豊臣政権下では、秀吉は中国の華夷思想に追従する事を避けた訳です。元々 日本は古来から華夷思想に否定的な立場にいましたから、仮に取得しても 日本国内に於いては あまり効果の期待できないモノなんですね、実は。と言う訳で、いずれにせよ 他の方法を考えるしかないです。では もう一度、この二人の存在を洗い直してみます。

豊臣秀吉の場合は、藤原五摂家の養子となり、関白・太政大臣に就いて、関白職を甥の秀次に譲り、前関白として『太閤』と呼ばれる様になりました。関白職と言うのは古来から天皇の代理をする職です。太政大臣とは、いわゆる政治の長官。今で言えば内閣総理大臣と、国会そのものに相当します。よって、家康は、藤原氏の養子になって 関白・太政大臣に就くと言うのもアリと言う事になるんでしょうか？とりあえず、アリとしましょう。ですが、コレも無理なんですね。秀吉は 関白職を身内に譲ってますから、少なからず『関白・太政大臣の尊属継承』を示唆しています。そして何より、先の朝鮮出兵の最中、豊臣秀吉の嫡男：豊臣秀頼が産まれてしまってます。ですから、関白職の奪取は ほぼ不可能なんですね。この頃から徳川家康は豊臣政権の最右翼を担っていましたが、すぐさま天下取りに移行しようとはせず、豊臣政権に対する配慮を重んじていました。それは、現状で自分がいなければ立ち行かない不安定な豊臣政権であっても、それを自らだけで覆すのは容易では無かったから。ここで万が一にも関白職を奪取してしまっては、ここまで辿り着いて、あとほんの一歩で天下が手に入ると言う立場を瓦解させかねないんですね。非常に微妙なバランスの位置に家康は立っていた訳です。名声を焦り、実を失っては元も子も無い。そもそも関白が天下人とされたのは、中世以降に限定すれば、あくまで豊臣秀吉と言う天下人だけが取った称号であり、認識でしか無いんですね。とどのつまり論で行けば、既に形式だけの空虚な律令官職である以上、家康にとって天下人をバクチしてまで、この関白職だけに拘る必要は毛頭無い。その程度の称号なんですね。天下を取ってから、気分が乗れば取ればイイ…優先順位の逆に気づけば必要さえ無い。むしろ現状での関白奪取は危険、いや、そもそも 関白職が何だと言うんだ？このステータスを取れば良いし、実際取っていたと思います。ですから不可能と言うより論外…と言うべきなんでしょうね。

仕方が無い、もう一度 『足利義満』の方を見てみましょう。義満は『征夷大将軍』となって、その後『近衛大将』を経て、更に『太政大臣』となってます。その折 天皇の権力さえ牛耳って、死去の際には『太政天皇』の号を貰える所にまで至りました。

ココでまず、家康は 『近衛大将』は既に貰っていますので、インパクトが有りません。先の通り『太政大臣』もダメですね。豊臣氏が更に上の『関白』を牛耳っちゃってます。次に…この時期に於ける『征夷大将軍』なら認識的に一応良しとしましょう。『太政天皇』は…無理ですね。コレは初代が起こすジレンマです。義満が『太政天皇』号を貰えるかも知れない所に来た経緯には、義満の妻が『天皇の准母』となった為…と言われてるのが通説です。あくまで通説ですが…本意は別に有ると考えるのが妥当なんですけど、コレも端折ります。いずれにせよ、日本統治を明確にし、子孫に継承し 格式を産み出し、その継承した者の内でも、実質 天皇さえ完全に操れる日本の頂点に立った人間なら、朝廷でさえ認めるであろうと言う流れが最低限必要で、つまり格式的にも日本のトップに立ってからの世代の積み重ねが、賜号を受けられる可能性が０％とはならない前提条件となります。どっちにしても異例過ぎる事なんで、ほとんど0％ですが。よって『太政天皇』とは、格式が 既に存在してるから、他の条件が更に揃えば可能な技であり、格式的に現時点で何も無い家康には不可能と言う事になります。とりあえず武家の棟梁と言う認識として『征夷大将軍』だけはＯＫの様ですが。それだけじゃ物足りませんね。足利義満に倣うと言う感が見えません。他の事例も物色するしか無さそうです。と言う訳で 足利義満、ココで もう一つ持ってました。『源氏長者＆淳和・奨学両院別当』と言う称号です。それにしても この人、ホントに色々持ってますね；

6．源氏長者

では『源氏長者＆淳和・奨学両院別当』。『淳和・奨学両院別当』と言うのは、学問所の所長みたいなモノです。まぁ、『源氏長者』にくっつく慣例みたいなモンなんで…この二つは大概セットですんで、略して『源氏長者』。『源氏長者』とは、全源氏の氏長者を指します。平安・鎌倉期までは、朝廷に於ける位階の一番高い者が、一族の氏長者となってました。当然 高い位階の流れは、基本的に公家の家系で続く事になりますので、源氏であれば 嵯峨源氏・村上源氏辺りが主に担ってました。ですが突如 室町時代に、公家でない人間が任命されます。『足利義満』です。彼は 武士で初の、清和源氏で初の、『源氏長者』になりました。何故 義満が源氏長者になったのか、コレは単純に、准三宮 太政大臣になってたから。と言う事で片付きます…称号を簒奪したと言う話も有りますが。どっちにせよ義満が太政大臣に就いている為、朝廷が その異議を問う事は出来ませんね。当時 関白は藤原五摂家の相続でしたから、源氏としては太政大臣が最高官位となります。また、『三宮』って、ホントは 天皇の后妃に与えられる称号です。男ですから お后様では無いんですが．．．＿|￣|○だから、『准』としておいたんですかね。

要は、皇后並みの位置にまで、天皇が身内と認めたと言わんばかりの位置にまで、臣下の、しかも武家の人間が就いていたと言う事です。実際 太政大臣である事よりも異常な話。しかも『源氏長者』に清和源氏の人間が就いたと言う事が、実態的に異例の話なんですね。清和源氏と言うのは 、現在では どーにも源氏の主流に見られますが、本来は一番皇統から排他的な位置取りに有ります。系図を見れば分かるんですが、清和源氏の始祖である清和天皇と言うのは、その子 陽成天皇で 別系統に皇統は移ってしまい、皇統を切らされてます。皇室本流の流れから切り捨てられた源氏なんですね。天皇に準ずる位置にいたのが皇族から氏姓降下した源氏なり平氏なりな訳ですが、既に初期の頃から皇親とは言いがたい位置に置かれ、そそくさと京都から離脱。公家社会から足を洗ってます。要は朝廷にとってもウザかった存在が清和源氏です。源氏は２０流程度有りますが、清和源氏は一番ハスッパな源氏扱いだったんですね。だからこそ、地方への土着が早く、早々に武士団化 出来たとも言えるんですが。言い方が悪いですが、朝廷にとって迷惑な源氏であり、平安末期に於いて源義仲や源頼朝が台頭して来るまで 無名で使い捨ての源氏。と言うより、その頼朝でさえ 朝廷では『源氏の頼朝』が 一つの固定認識であって、『清和源氏』とは捉えられておらず、『鎌倉殿』と言った公家風の呼び名も然りな話です。また頼朝の方も幕政に於いて『一族』を軽視した理由の一端は、朝廷との関わりに於いて『清和源氏』である事が負い目になると判断したからかも知れません。いずれにせよ、清和源氏と言う氏族は非常にマイナーだったんですね。公家出身で無いと来た上に、ましてや清和源氏が『源氏長者』となったと言う事は、律令制発足から600年間で 前代未聞の話なんです。朝廷にいた公家源氏の連中にとって、コレほど破壊的な衝撃は無いんですね。

また その衝撃は公家源氏に限らない事なんです。『源氏長者』と言う称号が何故発生したのか？と言えば、単純です。『源氏は皇孫であり、よって 源氏長者とは、天皇に準じる者』を明確にしたんです。同じ定義で言えば、『平氏長者』なんかも有りそうだし、ソレもオイシイ称号になりますよね。ただ、『平氏長者』と言うのは記憶に有りません。平氏は４流有りますが、桓武平氏以外は短代で切れてしまってます。平氏＝桓武平氏と言われるぐらい、平氏に於ける桓武平氏は他を圧倒しているんですね。また、平氏は あまり朝廷での活動は行ってなかったと思います。こっちも清和源氏と同様に そそくさと地方に下った模様ですから。要は平氏が成立した桓武天皇の時代と、次世代で有りながら公家源氏として残った嵯峨・村上源氏の朝廷に於ける賜姓降下の意図は全然違ったのではないかと思われ、嵯峨・村上源氏の頃は丁度、藤原氏との権力調整の為、朝廷に居残る事が大前提に置かれていたんだと思います。源氏・平氏の語源からしても、何かしらその意図が有ったんでしょうね。他に『藤氏長者』と言うのは有った様です。藤原氏の長者ですね。要は、律令制度に於いて、上級官位を世襲していると言う事が『長者』の名声が作られる大前提であって、上級官位の世襲は そのまま公家衆の中でも困難とされてる訳で、だからこそ公家にとって非常に名誉のある称号となりえた訳です。『藤氏長者』は藤原氏ですからアレですが、『源氏長者』は皇孫であると言う意味も含みますから尚更ですね。

と言う訳で、義満が 日本の全ての権力を手に入れた経緯を踏まえて、家康が可能な方法を４段論法で。

1. まず、日本国王たる立場として、政治的支配を必要とするのは、現状で 武家と皇室・公家であったと言う事。
2. 武家を統括する為には、現時点で征夷大将軍が効果的であると言う事。
3. 皇室・公家を統括する為には、源氏長者の称号が効果的であると言う事。
4. よって、征夷大将軍と源氏長者の称号を貰えば、日本国王の立場となれると言う事。

…単純に こんな感じです。朝廷を倒すのが危険である以上、明との和解が不可能な以上、豊臣と言う 目の上のタンコブが未だ存在する以上、歴史の流れと世論を踏まえれば、この方法が一番安全で手っ取り早い方法となります。と言う訳で、足利義満より一段階ステップアップすれば、穏便な上に、日本国王として なんとなく体裁が整うと言うモノです。そのステップアップ…要は、両方同時に貰ってしまえ と言う、足利義満の上を行けば良いんです…格式に実が伴わない時代です。格式なんて理解してくれば、そんなもんです。

と言う訳で、源氏であれば、藤原氏である豊臣秀吉に気兼ねする事は有りません。むしろ、藤原氏の直下に 源氏随一の実力者がいる構図は、秀吉としても権勢を高める事になり、持って来い な話です。ただ、秀吉としては『征夷大将軍』は頂けない話です。歴史を追うと、鎌倉・室町と武家の棟梁が就任した征夷大将軍であり、元主君である織田信長も朝廷に就任を懇願された征夷大将軍です。秀吉は、信長の威光を未だ持っていたか、諸国大名が それを暗に示唆したか、いずれにせよ遠慮しています。だからこその『関白』です。ですからココで家康が征夷大将軍に就く事は、如何せん秀吉との問題が生じるであろう…と、家康は判断したはずです。よって、時が来るまで地固めしましょう…と言う事になります。征夷大将軍は後々機会が有れば いつでも就けます…秀吉さえ死ねば。急ぐ事は有りません。

7．源氏長者とか言ってる前に…

源氏長者に関しても、日本で秀吉の次に実力を持っているのは自分です。『源氏長者』なんて当然…ん？…源氏長者？…源氏？…そー言えばオレ、今まで藤原氏で通してたよなーと。おぃおぃ困った、家康さん。ついでに、源氏長者は氏の称号ですから、前の氏長者が存在してる限り、朝廷からではなく、長者から長者への相続になります。この時代になりますと、朝廷官職についても朝廷から直で貰うのではなく、氏長者が朝廷に推薦して、朝廷が氏長者に執奏許可を与える形を取ってます。よって、源氏長者もさながら、源氏の人間は、源氏長者から朝廷官職を貰う事になってるんですね。

で、この当時の『源氏長者』は…足利幕府第１５代将軍：足利義昭が持ってたままでした。そーなると とにかく、足利義昭への執奏工作を事前に練っておいて、頃合良く将軍宣下と同時に源氏長者も頂く計画を立てなくてはならないですね。ですが、そう簡単でも無さそうです。足利義昭は、散々織田信長と喧騒していた人物です。その信長と同盟を結んでいた家康の そんな甘い話を承諾する訳が有りません。家康側も そんなに下手に出て相手にしたくは無いはずです、義昭とのツテも有りませんから。ちなみにこの時期、義昭は秀吉政権下で 家康と同じ大老職だった毛利輝元の元に匿われていました。輝元も多分、家康と同様の考えを持っていたんでしょう。元々毛利氏は大江氏の系統ですが、源姓に切り替えれば済む話です。要は、義昭の養子になれば良い話です。そしてそのまま源氏長者と征夷大将軍の執奏を行い継承すればイイ話となります。いつでもソレが可能だったんですね。ただ、こちらもタイミングです。まだ秀吉が君臨している この時期にコトを起こすのは問題です。家康と輝元は同じ大老職ですが、秀吉の感覚としては、家康は身内的、輝元は外様的であり、秀吉政権の内外牽制調整として輝元を大老職に置いていた訳であり、少なくとも家康より信用されていなかったんですね。だから尚更 慎重にコトを運ばなければならず、中々動けず、義昭が逃げ出さない様、ひたすら義昭に恩を売り続けていたんですね。義昭も毛利を利用して天下主君に返り咲きたい意思がありましたから、お互いどっちもどっちっつー感じですが。

そんな事は さておき、どーする 家康君？です。が、ココで粋な計らいをしてくれたのが あの秀吉です。秀吉は この頃、自分の大邸宅を完成させました。いわゆる『聚楽第』です。せっかくですから お友達を招いて、お食事会でもして、精一杯の おもてなしを…と、薄気味の悪いサルです。と言う訳で、主要大名が全員、サル小屋に召集されました。ワザワザ 都の。しかも天皇まで。迷惑な話です。更に そこで各大名に「オレに絶対忠誠を誓え、ウッキー」と言う誓詞を書かせてます。図々しいサルです。聞き入れるしかない訳ですが。で、その誓詞に家康は『源家康』と署名しました。今まで『藤原家康』だったんですけど。コレを書いたのは意図的ですね。「忠誠を誓うから源氏に…源氏の筆頭になりたい」と暗に言っている訳で、それだけ言えば現状を把握でき、現状を打開できる力を持っている秀吉に、何とかして欲しいと頼み込んでいるんですね。サルからドラえもん状態です。既成事実を先に作り、後々の問題は 追々に片付けていこうとしたんですね。

コレは先に書いた通り、秀吉にとっても都合の良い話で 更に家康に恩が売れ、ココで毛利が どう動くか。コレを一辺に把握でき、かつ自分に不利は無い。最悪、家康ＶＳ輝元の戦となり、そこで秀吉が調停すれば、二強の力を削ぐ事ができ、更に民衆に対しても二強戦争を終結させる事で、『天下の安寧を望む豊臣』と言う印象も植え付けられ、先の話も加えれば 一挙何得？になるか分からないくらいの好都合と言う事になります。

早速、秀吉は動きます。足利義昭を聚楽第に呼び出し『１万石やるから、出家しろ。』『オレの家臣にしてやるから、出家しろ。』『ウチの聚楽第、綺麗だろ？近くに住ませてやるから、出家しろ。』『元々ボーズだったんだろ？だったら もう一回出家しろ。』会話の至る所に出家の言葉を散りばめ、出家を促しました。そして、義昭が 輝元の元に居るよりも好待遇な話を持ちかけて 家臣にし 出家させます。この内容の詳細は有りませんが、こんな感じでしょう。俗にコレを洗脳と言います。まるで どこかの新興宗教ですね。こーして、義昭は出家します。また、秀吉の家臣となり、家康の方が大名と言う事で 立場が上になりますし、秀吉の意向で 義昭を思いのままに動かす事が出来るようになります。まぁ、出家した時点で、家康にとっては不要な存在となったワケですが。出家した事で『源氏長者』の地位は朝廷に返上されます。これで、家康は『源氏長者』の称号を取得する事が可能になりました。ですが、ココでは受けません。ココで受ける行為は、秀吉の不信を招きます。源氏長者と征夷大将軍を同時に受けることが目的の家康です。コレは秀吉にとって好ましくないのは先に書いた通りです。この時点で家康がココまで考えていたかは判別できない部分でも有りますが、仮にこの時点でこの様に家康の意図が存在していたとしても、征夷大将軍ついてはストッパーが掛かってます。征夷大将軍も源氏長者も、この時点で空席なんですね。よって、次の源氏長者も征夷大将軍も 前の氏長者：足利義昭から受けるのではなく、朝廷から受ける事になります。朝廷から受けるという事は、天皇から受けると言う事です。この時、天皇は政治の実権を持っていない為、天皇の補佐である関白が執奏する事になります…当時の関白は豊臣秀吉です。よって、秀吉がＯＫを出さない限り、源氏長者にも征夷大将軍にも なれない事になります。

まぁ でも、焦る事は無いでしょう…と 家康君。ココで慌てて源氏長者になる必要も無いし、征夷大将軍をゴリ押しして秀吉との関係を悪化させる必要も有りません。とりあえず、『源氏随一の実力者』と言う名目が立てば十分です。これで 藤氏の豊臣・源氏の徳川と言う構図が出来たんですから、それで十分と取ったワケです。

とりあえず、コレで源氏長者にはメドが付き、事実上 いつでも確保出来る状態になりました。後は秀吉が くたばってくれれば、次は ガキんちょ関白です。どーとでもなります。征夷大将軍もモーマンタイでしょう。事実、その後 家康は、将軍宣下と源氏長者宣下を受ける直前、秀吉死去の後、空白になった関白職を 幼い豊臣秀頼に受けさせず朝廷に返上させてます。これで豊臣の実権を排し、朝廷との直接関係を置いたんですね。

さて話を戻し、残る些少の問題は…源氏となった事への不整合が残ってます。要は、源氏たる裏付けを付けたい所です。この時点まで家康は藤原氏でした。なのに 先程の署名で源氏になっていたからこそ、意図を踏まえ秀吉は動いたワケですが、これは その二者だけの話です。仮にココで いきなり『源氏長者』になったとしても、他の大名連中や朝廷・世論は「はぁ？」な訳です。ですから、源氏長者を急ぐ前に、周辺に対して『徳川氏は源氏』で有る事を認知させなければならず、何かしらの裏付けや根拠が必要となります。と言う訳で、徳川氏を源氏にしましょう。その為の手法としては…とりあえず、氏姓の問題ですから、手っ取り早く系図辺りに 手を付け、大体出来上がった所で、既成事実として嘘の伝承でも作ってみて。そんな伝承を作り上げるにしても、デッチ上げの古文書を作るにしても、とりあえず全体図を作ってみないと整合性が取れなくなります。やっぱり系図から始めましょう…と言う感じ。実際も こんな感じでしょう。

結構、ココで勘違いされている方が多いんですが、『徳川⇒元々は得川。得川は清和源氏』と言う方程式。家康が 源姓たる徳川氏に改姓したのは、清和源氏の得川に目を付けて改姓した訳では無いんです。ちょっと順序が違います。まずは藤原姓として徳川氏。その後、源氏として得川（徳川）氏と言う順番。元々藤原氏の系列に徳川氏と言う一族が存在していたと言う主張が根底にあり、既に『藤原姓徳川氏』で有ったと言う事を、混乱して頂きたくないと思います。家康は最初の任官である『従五位下・三河守』に叙任してもらう為、『姓』の必要が有りました。先程書いた通り、源氏の人間なら源氏長者に、藤原氏の人間なら藤氏長者に…どこの馬の骨とも分からない松平氏では、朝廷も朝廷官職・位階を渡すわけには行かなかったんですね。

8．田舎モノから藤原姓へ

ではまず その藤原姓のお話。『改姓』と言う言葉が頻繁に使われますが、『改姓』とは『元の姓』から『別の姓』へ乗り換えると言う事です。家康が そもそも源姓に改姓をしなければイケない理由は、「その前が藤原姓であったから」に他なりません。元々源姓であったり、何も姓が無ければ、藤原姓から源姓への『改姓』作業と言う面倒を起こさなくて済んだんですね。じゃあ、家康の先祖『松平氏』は『藤原姓』だったのね？と言うと、コレもまた嘘です。松平氏は藤原姓でも源姓でもない、タダの松平氏だったんです。田舎モノが周囲にケンカを売り続けて 気が付けば三河一国を支配していた…そんな山賊みたいなのが松平氏です。ですが、いつまでも山賊風情ではいられませんし、『三河一国を支配している』と言う自負や立場、プライドが存在します。ですから、一般的に『三河の松平』と言う事を、とにかく みんなに認知してもらわなくてはなりません。

では、どーすれば認知してもらえるんでしょう？「三河の松平をヨロシク！」と、全国に触れ回れば良いんでしょうか？それじゃあアホな選挙運動ですね。効果無さそうですし、面倒ですね。と言う事で、この為に当時の一番手っ取り早く有効な方法が、朝廷からの任官と言う存在になります。この時代では確かに朝廷官職なんて 実の効力など存在しません。天皇の権威さえ地に落ちている状態です。ですが、この戦国時代に於いても戦国大名と言う実力者達は少なからずソレに就いており、ソレを望んでいました。実務的な理由は そんなに無いと思います。ただ、詳しい事は後述にしますが、一様にその傾向が有った事は事実であり、戦国大名では出来ない、全国一律に統括表現を認知してもらえるステータスとして、戦国時代の時点で唯一存在していたモノが朝廷官職であり、それしか残っていなかった…と言うのが現状です。足利幕府の『守護職』辺りでは、既に意味が無いんですね。ですから、家康も朝廷官職を望みます。欲しいのは 三河の長ですから『三河守』…三河の長官職ですね。

ですがここで、問題です。何が問題かと言えば『松平氏って、ドコの馬の骨？』っつートコです。朝廷官職に就くには それなりのステータスが要求されます。単純な『実力者』っつーのは認めないんですね。特に血筋が重要視されます。この点で、『松平氏』はアウトなんですね。血筋を明確にする為に、一番良い方法は『系図』です。ですが、田舎の農民上がりに、そんなモノが存在するはずが有りません。それでは、朝廷の官職に就くのは至難の業となります。困りました。困ったんで、こーゆーのは専門家のゲストの方を お招きしましょう。

家康の知り合いに吉田右兵衛督兼右 と言う人がいます。京都吉田神社の神主さんで、今回の困っちゃった経緯を彼に話した所、都合の良さそうな系図を探してくれたらしいです。コレに家康をクッつけてしまえ です。この時も お布施っつー謝礼金たんまりで。おかげで朝廷に賄賂ワイロと 金にモノを言わせて従二位。この吉田兼右さん、とりあえず『徒然草』の吉田兼好と同族です…10代くらい前に分かれた親戚ですが；芸能・歌謡・書写なんかが得意分野で、本も何冊か書いてます。当時の足利将軍や戦国大名ともツテが多様で、大名の系図改竄も、家康が最初と言う訳では無いと思います。朝倉氏を大昔の天皇と接続させたなんて話は結構有名ですし、他の大名に関しても 他の学者では調べようが無い様な、古来の神や天皇に接続させていた張本人も この人だと思います。神道専門の方ですからね、この辺の事は当然詳しいし、彼が言えば、嘘も真実になるんでしょう。神主さんは、嘘を付かないんですよ。そーゆー時代です。で、見つけたのが『万里小路家で見つけた古い系図』だったそーです。その系図には、徳川氏と言う氏族がいて、当初 源姓であったが、途中で藤原姓に改姓されたと言うヤツだそーで…だから、一体何を言いたいんでしょう？とりあえず、そんな事を言っているワケですから、これについてのポイントを４つほど挙げてみたいと思います。

9．万里小路系図の矛盾

�@まず、戦国時代より古い時期で、作為的に改姓と言う作業を行う理由が あまり無いんですね。また、姓を持っている人が 別の姓に意図的に改姓するのは、朝廷内に於いて信用される訳が無いんですね。むしろ朝廷内に於いて、藤原氏と源氏と言うのは お互い相反する存在です。源氏は藤原氏を「皇孫でもないヤツが調子に乗りやがって」ですし、藤原氏は源氏を「皇統資格を失った外れクジのクズどもは、さっさと消えろ」な訳です。表向きは そんな事は言いませんが、平安期では その傾向が強く見られ、そのおかげで何度 朝廷内政変を起こしたか知れません。よって、この時代の古い系図であれば、それ自体考えづらい所なんですね。ですから、この改姓が考えられるとすれば、朝廷での藤原氏・源氏の勢力が弱まって、武家が台頭した為、少なくとも朝廷内の身内で争っている場合じゃなくなってからの話になり、大体、平治の乱以降…鎌倉期以降のモノと言う事になると思います。

�A次に、母系継承による相続。大昔の家族形態と言うのは、基本的に母系社会です。結婚も妻問婚が主流で、旦那さんが奥さんの家に通って、昼間は別生活だったりしたんですね。ちなみに、チンパンジーは父系社会、ニホンザルは母系社会だそーです。さておき、ソコで産まれた子供は、母の実家で育てられ、母を親として成長するんですね。よって、母の意向は父の意向よりも子供に反映されやすい環境となります。藤原氏が天皇との姻戚関係を執拗に望んだ理由は、ココなんですね。家系継承の際には、基本的に父親との交渉も必要ですが、母系継承が成立しやすかった環境でした。また、現在は父系社会ですが『妻は家を守り、夫は家を助ける』と言う感覚は未だ残ってますよね。まーココ最近は共働きが多いので、結婚の意味を良く分かっていない方が多い様ですが。社会環境がソレを許さなくなってますからね、仕方が無いかも知れません。…と、どーも、話が逸れ易くて嫌だな、この話；

�Bもう一つ、嫡流系の断絶による相続。今の天皇家も大変な状況ですが。母系社会であろうとも、氏族の嫡流は 基本的に男系継承です。矛盾しているでしょうが、それを解消する為に、側室とか妾と言う存在が容認されていた…と言うより当り前だったんですね。天皇家だって、第１２２代明治天皇まで一夫多妻制です。そーすれば、何人も男子が誕生する可能性が高いワケです。つまり絶対的に長男が嫡流として相続しなければならないと言う事は無く、産まれた大勢の男子の一人でも、自分の跡を継いでくれれば良い話。何人も 跡を継いでくれると言う父親泣かせな子供が多い場合は、年長からとなりますし、相続権を分割する分家が沢山作られたんですね。当然、兄弟争いも起こります。よく『骨肉の争い』と言いますが、コレは本来『骨（家系）』と『肉（継承する子供達沢山）』の争いと言う事で、一つの家系嫡流欲しさに群がり争う子供達…そんな感じです。そんなパパ泣かせな子供達とは裏腹に、誰も継がないとか、女の子しか産まれないとか、子供が産まれないとか、っつー場合も少なくありませんでした。確率の問題ですからね。その場合、断絶…もしくは、養子をやむなく貰い辛うじて継承と言う事になります。

�Cそして最後、母系社会が父系社会に移った時期。平安期までは、都も田舎も公家も農民も、母系社会でした。それが鎌倉期に入って一変します。武家社会と言う存在です。コレは、武家の発生が理由の一つでしょうが、色々と原因が有りますから一概に、コレだとは言う決め手は有りません。結果としてこーなったと言う所。ただし、全国普及と言う傾向ではなく、どちらかと言えば公家・武家の傾向に過ぎない話だったと言う所。農村地域では その後も母系社会は続き、完全に父系社会が浸透したのは、豊臣秀吉の検地の時期以降ではないか？と思います。今では、家系図は男系継承の形式を取っているのが 当たり前ですが、室町期の『尊卑文脈』辺りでは、編纂の際に集め回った古来の各端系図の中に、かなりの数の女系系図が存在しており、系図の再編集や統合には相当苦労した様です。

…と言う訳で、『万里小路家で見つけた古い系図』に、『徳川氏と言う氏族が有って、その徳川氏は 当初 源姓であったが、途中で藤原姓に改姓された』と言う話。�@〜�Cの前提を考慮すれば、ほとんど無理が有ります。と言うより無茶が生じます。唯一考えられるのは、養子による継承だけになります。と言う事は、そんな系図が存在するなら、必ず養子の位置で系図に付記されているはずです。この系図の話は吉田兼右から、当時の関白：近衛前久に伝わってます。この段階で、養子のポイントは、源姓から藤原姓に変わったんですから、藤原氏側の系図に関わる問題であり、単純に話題として上るはずです。仮に逆でも そーでしょうが。いずれにせよ、コレが全く伝わっていないと言う事は、養子と言う流れにも疑問が生じます。

よって、源姓ｏｒ藤原姓。どちらかの系図でしかない系図だったと言う事です。どちらなのかはハッキリ分かりません…その系図を吉田兼右は鼻紙に書き写して、家康と一緒に系図として整え、その後 ホントにソレを鼻チンして捨てたらしいです。だからどんな系図だったのかは確定出来ませんが、とにかく、どちらかの系図でしかなく、むしろ源氏の系図であった可能性が濃厚だと思います。この系図を朝廷に提出した後、里見氏など関東・中部の源氏系大名に対し『遠いけど親戚だから、仲良くしてね♪』と、文章を送ってます。藤原姓を強調したい筈の家康が、何故 ワザワザこんな事をしたのか。「途中で姓が変わったから、元々は源姓。」が理論破綻しているのは、先の�@と�Cの組み合わせ。大名達も、ましてや 源氏と言う血筋を まともに持っている連中からすれば、「は？」の挨拶状な筈です。

では何故、この系図を源氏として そのまま使わなかったか？源氏では 当時の任官事情に問題が有ったからなんですね。それは先程の『源氏長者』『藤氏長者』の手続きと関係が有ります。藤原氏の任官は『藤氏長者』から、源氏の任官は『源氏長者』から…です。力を消失した室町幕府の要請如きで何故、大大名だった今川氏が上洛しようとしたか？何故 大大名だった武田氏が上洛しようとしたか？今川にしても北条氏が背後に、武田氏にしても上杉氏が背後に…要は、本国を開けるのは危険すぎる状態であり、一応姻戚を結んだり同盟を結んだりして補完してますが、そんなもの この時代では些少な話。応仁の乱で 都に集まった守護大名達の悉くが、戦国時代に弱体化した経緯を目の当たりにしている訳で、非常に危険な賭けだった筈です。そんな危険な賭けを冒してでも、上洛して欲しかったモノ。『都に向かい、天下に号令をかける』…それは、単に都に入れば良いと言うモノで無く、室町幕府が権威を喪失している以上、征夷大将軍になれば良いと言うモノでもなく、要は、源氏権威の要『源氏長者の継承権』です。まず地方に散在していた源氏を官位任命権と言う後ろ盾の元に、思うがままに動かせる。その上で『皇孫である源氏長者』として、都の公家を抑えてしまえば良いんです。よって、この『源氏長者』の獲得が最優先課題の一つとなります。

遠方からでも上洛しようとした この二大大名の共通点は『源氏』だったと言う事。他姓の大名は ほとんど上洛してません。他姓で上洛し、幕府との接触が可能だった大大名は、『織田信長』を除けば（信長は覇権者としてですからね、源氏以前に質が違います）、唯一『上杉謙信』ですが、ソレは足利幕府へ赴こうとしたのではなく、寺社や公家の所へ赴いてますので、これも質が違うんですね。

実の皆無な源氏長者、実の皆無な朝廷官職・位階。確かに 正式には廃止されていないだけの単なる古来からの律令制度の延長に過ぎません。コレは いわゆる伝統であり、歴史の積み重ねが説得力を持たせる『認識』と言う別の力なんですね。『自己の認識』を大幅に超えた『伝統たる認識』と言うモノは、どこまでその『認識』が世論の一般常識として通用しているのか？を、自身だけでは客観的に単純に計り切る事は出来ず、また、他者も同様にソレを感じている『認識』であり、これを推し量るには少なくとも 自分自身で認識総体の内奥に直面しなければならず、朝廷官位・位階の取得と言う行為により徐々に内奥へ侵食し、初めてソコで『他者の認識』へ介入出来る事になる実感を授受し、『他者の認識』を抑圧する説得力として時の権力者はソレを利用しつつ 更にその再構築をし、結果、副作用として朝廷官位は その効力を再び引き上げられる事になる。こーやって、何度となく下降したその効果は、その度毎に上昇させられ、長きに渡り維持され残されてきた『伝統権威』と言う無形を実感。『自己の認識を大幅に超えた伝統たる認識』を更に強め、後世に永続される結果を導き出す。すなわちコレが、歴史によって積み重ねられてきた『伝統権威』のパワーなんですね。この実の無さで 人を動かす魅力・動かされる魅力。特に、実で権力を獲得した人間には、魔法みたいなモノだったんです。イオナズンを唱えれば、本当にイオナズンが出るんですからビックリです。

で、この 家康任官時期。この当時の源氏長者は足利義昭です。が、それが曖昧な時期でもありました。当の義昭は 信長に都を追い出された後、あちこち逃げ回って 中国の毛利氏に匿われていた身。仮に任官権を持っていても、任官要請の為に一々都の朝廷に足を運んで執奏しなきゃならない。見返りも無く、他人の為にコイツが動く訳は無く、結局 源氏だと この辺で任官が停滞してしまう事になります。源氏長者は存在していても、源氏長者の価値を成していないんですね。

よって 家康は、藤原氏でないと任官が面倒と言う事になり、それは当然 系図を持ってきた吉田兼右も、朝廷側も、納得の範疇であったはずです。『この系図を 藤原姓だと言い張るんなら、まぁ それでイイよ。』…非常にファジーな感じですが、所詮は従五位下 程度の話です。実際も こんな感じで決まったと思います。そんな事より、こんな経緯だから、この系図が 『源姓から藤原姓に改姓された』と言い張る世代位置に関する事や、改姓された理由が一切伝わって無いんです。つまり、この時に初めて『この系図が 藤原姓の系図にされ、改姓事項も口頭説明で済まされた』からだと思われます。よって、万里小路家で見つけた古い系図は、元々 源氏の系図だったと推測できます。

後で触れる話ですが、こんな経緯だから、徳川に興味を持って調べてたりしている方々が 混乱して『得川だから徳川』…つまり、『源姓の得川』ありきで始まっている思考が 先行してしまうんですね。この時点で源姓の得川は、全然関係無いんです。家康が「徳川氏」を取った理由…それは この時点で、この系図に於いて藤原姓にされてしまった『徳川氏』が存在していたからなんですね。そして、それが松平・徳川系図の曖昧な部分である…

…と言う、一つの推論に辿り着きます。この後、徳川家康は、徳川氏のまま 源姓に改姓し、その系図（※以降『現系図』とします。）が 公表されます。ですが、万里小路家で見つけた系図（※以降『前系図』とします。）も、藤原姓へ改姓の時点で 三河守に任官した際に、公文書として朝廷には『藤原姓に改姓されたままの徳川の系図』の原本もしくは書写が 残されていたはずです。コレを破棄したい所ですが、家康はコレを簡単に押さえる事など出来ません。仮に家康が 源姓への改姓を試みた時点で、既に朝廷をも名実共に牛耳って絶対権力者になっていたのならば話は別です。いくらでも強引な抹消手段は有ったとは思います。ですが、まだその途上だったんですね。と言うか、コレが済まないと その道は開けないんですね。

ですから ある程度、前系図との つじつまを合わせながら 現系図を再提出しなければなりません。嘘の上に、嘘を塗り固める作業です。そーなると まず、少なくとも藤原姓に切り替えた原因の（藤原姓として改姓させられた）徳川氏初代の存在が目立ちすぎます。一度 藤原姓に移った前系図を 更に源姓に移行させる為には、彼を外して移行させる訳には行かないんですね。とりあえず彼を残した上で、つじつまを合わせなければならばならない。と言う事は、少なくとも前系図の徳川氏初代と言う人は、 どこかの源氏の人間として実在してた人であり、現系図の中でも存在を保留…付け加えられた人で あったと言う事になると思います。これが、『初代でもないのに、松平氏の初代に仕立て上げられた人：松平親氏』に相当すると思われます。逆を言えば、前系図の中で、徳川氏の初代が『徳川親氏』なる名前の人だったと言う事になると思います。よって、この『徳川親氏』と言う人は、松平初代と思われる『松平親氏』とは別の存在と言う事になります。たまたま見つけた系図に載っていた人がピッタリ自分の先祖だった…有り得ませんよね。よって、松平氏初代：松平親氏に相当する人は、現系図の原型には全く別の名前の人と言う事になります。

とまぁ、何を言っているのか、ちょっと ややこしくなったんでチャートにしますね。…だから、「一体何が言いたいんでしょう？」と、初めに言った訳ですが；；

4段目については、松平氏始祖のお話。『松平氏の初代は親氏となっているが、それ以前にも松平氏は存在していた』にも関わらず、現系図で松平親氏を初代とした理由と交差します。そして 家康が、縁もゆかりも無い『徳川』と言う名字に決定した理由は、あくまでこの前系図から引っ張ってきた藤姓改姓の為のキーである『徳川親氏』が根拠の筈です。また、『徳川親氏』と言う人物が、前系図の中で徳川氏初代として存在しなければ、徳川と言う名字など考えもしなかった筈です。

と言う事で、松平氏初代と言う位置には「親氏」ではなく、全く別の名前の人物が存在していた事として、一度ケリ付けます。